ダイフェカーター

ダイフェカーター
(大)  約35cm
(小)  約20cm
「悪魔の牡猫」と呼ばれる400年前より伝わるX'masのパン。
レモンの香りのする大変珍しい食感が楽しめます。

『ダイフェカーター』は、「悪魔の牡猫」と呼ばれるパンの名前です。
なぜそんな名前がパンに付いているのか?どんなパンなのか?知りたくなりませんか?
2004年のある日、私は「悪魔の牡猫」という奇妙なタイトルがつけられた講演会を見つけたのです。そこで400年も前のその不思議なパンの物語に出会い、さらにはなんと!そのパンを作る機会を得たのでした。

少し長い話になりますが、私がこのパンに出会えたエピソードや、その時の感動、そして発見の数々を少しでも皆様にお伝え出来たらと思います。よろしければ、しばしお付き合いください。

ZOPF代表 伊原やすとも

 *    *    *    *

まずこの方のご紹介なくして、このお話は進みません。
舟田詠子氏「ダイフェカーター」の講演を開催した先生です。
長年にわたりパンの文化史を研究されており、ヨーロッパ各地で文献研究とフィールドワークを行なっています。ご自身も1年の半分はヨーロッパで暮らし、日本に戻っては、楽しい講演会を開くなど、非常にアクティブな毎日を送られています。
著書に『パンの文化史』『アルプスの村のクリスマス』『誰も知らないクリスマス』
など多数あり、クリスマスの文化の研究にも大変長い年月をそそがれています。
(詳しくは  http://funadaeiko.wordpress.com/  へ!)

舟田先生がこの「ダイフェカーター」という名のパンに出会った最初のきっかけは、1枚の絵だったそうです。絵の中に描かれた不思議なパンを見て、
「なんだろう?」
と思ったことから、その研究は始まったのだそうです。
そして10年以上かけて、その結果をまとめられたと言う訳です。
その絵は「聖ニコラス祭」を祝う家庭風景を描いたものでした。
私もその絵の写真を見せてもらいましたが、申し訳ない事に「これが問題のパンです」と指差されてもなお探してしまうほど、ごちゃごちゃとした日常の家の風景に描かれていましたから、それがパンだということは分からないほどでした。

ダイフェカーターは、本来は大きく焼かれるパンのようです。
1本が2キロもあるでしょうか、小さなお子さんなら抱えて持つとよろけるほどだったと聞きました。
とても重たいずっしりしたパンです。表面は黒光りして、得体の知れない絵柄が切り込まれます。
私も数回ほど大きさも忠実に再現して焼き上げてみましたが、それを店に飾るとそれはそれはおどろおどろしい雰囲気を漂わせ、大変人目を引きました。
今はZOPFバージョンとして、小さく柄も入れさせてもらいましたが、本来は柄にも意味があり、このような柄でない事をここで訂正しておきます。

パンはいわゆる収穫祭を祝って飾られたもので、もっと昔は本物の猫を生け贄のように扱った事の名残だった様です。収穫を祝う祭りの中には、また翌年の収穫を願う気持ちがあり、そのために魔除けを行ったとされます。
いつしかその行事は、その猫を象ったパンに代用されていったのだそうです。
なのでよく見ると両端のくるっと丸められて部分は、骨の端に見えませんか? 
そう、これは猫のスネの骨を象ったとされているそうです。

さて味ですが、意表を突く味わいがあります。ちょっと心を和ませてくれる、菓子パンの部類ではないかと思います。配合からも日持ちのするパンであった事がわかります。飾られてから食されたとするなら、日本なら「鏡もち」といったところかな?なんて連想をしました。

「ダイフェカーター」とは、訳すと「悪魔の牡猫」となるそうですが、この名前の由来も研究当初は分からず、長い間 呼び名も不明だったそうです。
このように、その講演会では現在に至るまでのダイフェカーターの謎が、臨場感タップリに話され、舟田先生は未開の地に乗り込んだ、まるで冒険家の様でした。それはミステリアスでありスリリング。いろんな偶然も手伝いながら、謎は解き明かされて行くのです。
先生のお人柄もあちこちに顔を覗かせ、大変あたたかな気持になる講演会でした。

初めは名前すら分からなかった絵画の中のひとつのパンが、どんどんと沢山の出合いや感動を生み出しながら、その正体を明かして行く様は、なんとも興味深いだけでなく、まるでおとぎ話のような心弾む展開だと、私は本当に眼を見張りながら話に聞きいった事を今でも思い出します。
また、講演会には歓談会が用意されており、なんと先生が手作りされたダイフェカーターを食させて頂くことができました。
実は先生は、1998年に実際にダイフェカーターを焼いているパン屋を突き止め、取材をされていました。レシピも保有されてましたが、本物を食べた事があるほど重要なことはありませんから、私は身を乗り出して頂戴したのでした。
なぜなら私も時折 店頭でお客様より「昔、出会ったパンをもう1度食べたい」と依頼を受けることがあるからです。レシピだけでは本物と同じに作れないのが、まさにパンですから、再現されるという瞬間がいかに貴重かと胸を高鳴らせて、興味津々パンを口に運んだのです。
初めて口にした400年前のパンでした。
先生は私がパン職人だと聞くと「恥ずかしいわ〜もっといつもは上手に焼くのよ」と、はにかんでお笑いになりました。そして、どんどんと話が弾み、思いかけず先生からダイフェカーターを焼いてもらいたいと依頼を受けることになったのです。
パン職人としてこんな瞬間ほど嬉しいことはありません。
自分も自身の手で作ってみたいと思っていたからです。
後日正式にオリジナルレシピを受け取り、何度か試作を繰り返し、先生に評価頂きながらダイフェカーターを完成させました。
そして今では、このパンを作る資格を得たのでした。

ひとつの絵の中に描かれたパンを追いかけることで、時代を逆走しその時代の中でそのパンがどのように扱われて来たかを知ることになるなんて、私は思いもよらなかったのでした。そこにはその時代の人々が「思ったり」「願ったり」した事が託されており、パンに「食としての文化」以外のものがあったことを初めて知りました。
思いもよらなかっただけでなく、『パンの文化史』と言う、新しい世界を知りました。
そして他にも、昔の絵画はその中に深い意味を携えて、色々なものが描かれていると教わりました。
絵の隅の床に落ちた小さな木の実一つでさえ、深い意味をもっているのだそうで。そう、「絵は読むべきもの」であると本の中でも語っていらっしゃいます。眼からウロコが落ちた瞬間でした。

クリスマスをちよっと変わった発想でお過ごしになるもの一興かもしれませんね。
「ダイフェカーター」と共に、誰も知らないクリスマスを体験されてはいかがでしょうか。
もっと詳しく「クリスマスの世界」が知りたくなったら、ぜひ舟田詠子著『誰も知らないクリスマス』(朝日新聞社)をご覧になって頂けたらと思います。
本の宣伝をする様ですが〜(笑)、すべてのお話を簡単には説明できない難しさがあります。ここにお話した話も本の1部です。
ぜひこの本をお読み頂きたいと思います。
そうそう「モミの木を飾るのはなぜ」かなど、クリスマスの不思議がいっぱい書かれてありますよ。温かいカフェと一緒にダイフェカーターを楽しみながら、古き昔から伝わるクリスマス菓子の歴史をひも解いてみてはいかがかな?と思います。
(現在『誰も知らないクリスマス』は店頭販売は終了となっているようですが、図書館等で探してみてください。)

◆◇ 食べ方 ◇◆

薄くスライスしてお召し上がりください。
紅茶・コーヒーなどカフェとご一緒にどうぞ。

・原材料名
     小麦粉 きび砂糖 天日塩 生イースト フレッシュバター
     牛乳 レモン 




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